しずおかキャンパる

昔と今、寮生と寮長、人の思いからみる片山寮

現在の片山寮

現在の片山寮の入り口の門

 半世紀以上の歴史にいま、幕を下ろそうとしている。静岡大学片山寮(静岡市駿河区大谷)は1967(昭和42)年に設置され、寮生である静大生による自治によって運営されている学生寮である。60年近くにわたって多くの学生が共に生活をし、思い出の場となっている。しかし施設の老朽化などを理由に2024(令和7)年度以降の新規寮生募集が停止された。片山寮とはどのような場所なのか。33年前に入寮していたOBや現在入寮している御宿奏太さん(静大3年)にインタビューし、寮の様子や思い出について聞いた。さらに、寮長を歴任した鳥谷彰義さん(同3年)と西田舶十さん(同3年)に募集停止が発表された際の心境や寮長としての取り組みについてインタビューした。

【静岡大学片山寮取材班】

 

片山寮の概要や寮での生活

食堂の様子

 

 片山寮は1967年に設立された静岡大学の学生寮で、静大静岡キャンパスの北東のテニスコートに隣接している。寮生が片山寮自治会を組織し、自ら運営を行っている。建物は鉄筋コンクリート5階建てで、定員は男子寮288人、女子寮228人。1室33平方メートルで、1人当たり4・5畳の広さだ。現在の入寮率は、24年度から募集停止したこともあり、約2割だという。

 原則は1部屋4人の相部屋だが、閉寮に向けて新規募集が停止された現在は、1人部屋や2人部屋が多い。設備としては、食堂や娯楽室、浴室、脱衣所、キッチンのほか、鍵付きロッカー、清涼飲料水の自動販売機、洗濯機、乾燥機などがそろっている。平日は朝食を180円、夕食を360円で食べることができ、食費、寮費、光熱費、水道代を含め、1カ月あたり約2万円で生活することが可能だ。寮生による自主運営により、管理人の人件費などを経費削減することで、安価な費用を実現している。

 卒業や入学で多少変動はあるものの、基本的には入寮時に割り振られた階のメンバーは変わらない。年に1度、階ごとに別の階へ引っ越しが行われ、相部屋のメンバーが変更される。

 また3カ月に1度、階ごとに会議が開かれ、生活上のルールを寮生自身によって決められている。主な行事としては、毎年4月に新入生歓迎会、10月から11月にかけて約3週間開催される寮祭があった。これらの行事を通して寮生同士の交流が深められてきたが、コロナ禍を経て現在はイベントの開催はなく、主に生活の場としての役割にとどまっている。

 

インタビューから見える、33年前の片山寮と寮生の姿

 長い歴史を持つ片山寮、以前の姿はどのようなものであったのだろうか。片山寮の新規入寮者募集停止に際して、寮生OBに片山寮での思い出について聞くことができた。

 OBの井上聰さんは今から33年前、片山寮に入寮した。その理由は多くの寮生と同様に、県外からの静岡大学への進学に際し一人暮らしを始めるにあたり、一人で部屋を借りるよりも費用が安く済むからである。また初めての一人暮らしで心配なことが多かったため、先輩などが身近にいる環境も理由の一つだった。

 大学始業の前に片山寮での生活を始めた井上さんは、数日過ごすうちに、同室で同学年だという人と親しくなり、仲良くしていた。しかし始業のタイミングで、衝撃的なことを伝えられた。その内容とは、親しくなった人は実は同学年ではなく、さらには4年生の寮長であるということだった。これは当時の片山寮で新入生に対して行われていた、「ニセ1(いち)」と呼ばれる恒例のドッキリのようなもので、新入生と同室となる入寮者が新入生になりすまして、そのまま始業まで過ごすというものだった。このことを伝えられた時、井上さんは「全く気付かず、とても驚いた」と笑った。またこのニセ1は、ただ入寮者が楽しむだけではなく、同級生として接することで心細いであろう新入生の緊張をほぐし、先輩と打ち解けることにもつながっていた。この企画は井上さんの入寮後も続き、次の年度では仕掛ける側に回って、このイベントを楽しんだそうだ。

 他にも、寮の部屋の階層別でのイベントなども企画され、現在でのサークルのような側面もあったそうだ。

 入寮者の募集停止について、井上さんは「とても驚いたが、仕方のないことだと感じる。時代も変わり、昔のような自由な雰囲気を許してくれる社会ではなくなってしまったのも影響しているかもしれない」と残念そうに話していた。

 「もし自分が工学部生でなく、2年次に浜松キャンパスに変わらなければ、そのまま卒業まで寮で過ごしていたと思います」。そう話す井上さんは、寮でのにぎやかな思い出を懐かしんでいるようだった。

 

寮での生活、寮生から見た募集停止

インタビューを受ける寮生の御宿奏太(みやど・そうた)さん=静岡大学静岡キャンパス付属図書館で

 

 現在入寮している人にとって、片山寮はどのような場所で、募集停止はどのように映るのか。寮での暮らしや募集停止に関して農学部3年の御宿奏太さんに話を聞いた。

 御宿さんは後期入試で合格後、家を探すのが大変だったことや生活費が安く済むことを理由に3年前片山寮に入寮した。まず寮の長所としては寮で安く食事ができること、また他の寮生との距離が近い点を挙げた。一方寮生活で困っていることは、設備は古いがそこまで不満はなく、共同生活の上でのマナーの方が気になると語った。トイレ、風呂、キッチンなどの共同スペースでマナーが悪い人がいても、誰がしたか分からないということがあるといい、共同生活が故の難しさもあるのだという。

 部屋については1年生の時は2人部屋だったが、現在は1人部屋に住んでいる。また昔は階ごとに飲み会や卒業旅行もあったが2025年度はなかった。「1年生の時は昔の寮のような活気があったが、今は新歓期がなくなってしまった」と語り、コロナ禍で多くのイベントが中止になって以降、御宿さんの入寮しているこの3年間だけでも大きく寮の雰囲気が変わってしまったことが感じられた。

 新規入寮者募集停止が決まった際、寮生には階ごとに行っている会議の際に決定事項としていきなり伝えられたのだという。その後アンケートはあったが形式的なものに過ぎず、不満を持つ人もいたかもしれないがデモなど反発の行動は出なかった。

 現在の入寮者は卒業までは寮に住んで良いということだったが、御宿さんは「新入生も閉寮までの1年間、2年間は受け入れるなどの措置を取るという方法もあったのでは」と語った。また、留学生向けの寮や浜松キャンパスの寮は運営を続けているのになぜ片山寮だけが募集停止になったのかという思いもあるという。

 御宿さんの思いを尋ねると、「新歓期のイベントが無くなったのは少し悲しい」とさみしさをのぞかせた。寮生活の中で新歓期は最も盛り上がる時期であり、4月の新入生歓迎会に向けて2~3月から毎年準備をしていた。2年生が企画を行い、3~4年生はニセ1などとして盛り上げる役割をしていた。このようなニセ1など3~4年にしかできないことができなくなったのは少しさみしいという。

 

寮長の想いと決断

第117期 片山寮自治会長
西田舶十(にしだ・はくと)さん㊧
第115・116期 片山寮自治会長
鳥谷彰義 (とや・あきよし)さん㊨

 

 半世紀に渡り学生の生活を支えてきた片山寮の新規寮生募集停止が決まり、運営体制が揺れる中、中心に立ったのが寮長の西田さんと前寮長の鳥谷さんだ。2人に寮長としての日々を聞いた。

 2人が入寮を決めた理由は「家探しの手間を省くため」(西田さん)、「安さと自治寮という環境の魅力」(鳥谷さん)というシンプルなものだった。しかし寮長として過ごした時間は、生活の場を超え、自治の最前線に立つ経験となった。

 寮長は立候補制だが希望者が少なく、前任者の推薦で信任投票にかけられるのが慣例だ。選挙では決意表明動画を全寮生に配信する。鳥谷さんは「寮をもっと大きくする」と掲げ、西田さんは閉寮決定後「人が減っても運営できる仕組みづくり」を目標にした。

 就任後は寮の代表として、工事連絡や修繕の要請などの連絡を大学と行う。もともと寮長は象徴的な存在だったが、募集停止が発表されると状況は一変し、寮の炊事・会計・厚生・庶務・文化委員会の委員長である「五役」たちとともに内部自治にも関わるようになった。

 運営方針を示すたびに強い反発が寄せられることもあった。「同じ階の友人に頭ごなしに否定されたのは辛かった」と鳥谷さんは語る。学年を超えたさまざまな学生が集まる寮では、その意見に向き合いながら全体の合意をつくる必要がある。大学側と寮生の要望がぶつかり、板挟みになる場面も多かったという。

 それでも2人は「仲間が支えてくれた」「自治の価値を知った」と口をそろえる。片山寮は小さな自治体のような場所であったと2人は振り返っていた。

 募集停止が知らされたのは、半期ごとに行われる学寮懇談会の場だった。当時寮長を務めていた鳥谷さんは、初めてその立場で参加した会合で、大学側から突然決定を告げられ、「どう寮生に説明すべきか」を即座に考えたという。

 大学が示した理由は、建物の老朽化と財政的な限界だった。建て替えには10〜20億円が必要とされる一方、学部棟の整備など他の優先課題も多く、片山寮の再建は現実的ではないと説明された。この決定に対し、鳥谷さんは当初、大学と争う選択肢も一瞬思い浮かべたという。しかし耐震性の問題を前に、万が一地震で建物が崩壊し死者が出た場合の責任を考え、命に関わるリスクを抱えたまま寮を残すことはできないと判断を改めた。大学が現在の寮生は卒業まで責任をもって見届けると明言したこともあり、最終的に決定を受け入れた。一方で、もっと早く告知してほしかったという思いも残った。

 募集停止の事実は、大学から直接ではなく、寮長と五役が作成した文章によって全寮生に共有された。多くの寮生は仕方ないと冷静に受け止めたが、新入生が来なくなることによる新歓や寮祭の消滅、人数減少による運営維持への不安など、生活に直結した声も上がった。閉寮に向けて省力化を進める中、一連の対応からは、最後まで寮の自治と文化を大切にしようとする姿勢がうかがえた。

片山寮の門の横には、新入寮生歓迎の垂れ幕も

 

取材を通じて

 取材を通じて、新規寮生募集停止についての詳しい話や寮の歴史、思い出などを知ることができた。インタビューさせていただいた方々に共通していたのは、片山寮がなくなることを残念に思っている姿だった。半世紀にわたり静大生の生活の場となっていた片山寮は、そこで生活していたたくさんの人々の思い出とともに、惜しまれつつゆっくりとその役目を終えていく。

 取材班は、山田明香里、井上裕月、松本とあ、河野月咲、片山遼太、住野純菜(いずれも静岡大学社会人文科学部「地域メディア論」履修生)

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