観光の「点」を「線」へ あしかがフラワーパークが描く地域貢献の未来

 「世界の夢の旅行先10カ所」(米CNN)に日本から唯一選出されるなど、圧倒的なブランド力を持つ「あしかがフラワーパーク」。しかし、その輝きの裏には、「地域貢献」という課題に対する葛藤と挑戦がある。広報担当の大島大輔さんに、足利市との連携イベント「足利灯り物語」や、広域観光の取り組みについて聞いた。

【あしかがフラワーパーク取材班】


リモート取材を受ける「あしかがフラワーパーク」広報担当の大島さん

「強すぎる」がゆえのジレンマ

 「正直、ジレンマがあります」。地域貢献について問うと、大島さんは率直な思いを口にした。

 あしかがフラワーパーク(足利市迫間町)の集客力は圧倒的だ。特に10月中旬から2月中旬にかけての開催されているイルミネーションの時期には全国から観光客が集中する。しかし、そのブランド力が強すぎるあまり、観光客がパークだけで完結してしまい、足利市内の他の観光地や飲食店へ周遊する「点と点をつなぐ動き」が生まれにくいというジレンマがある。「世界遺産がある日光のように街全体がブランド化していれば別ですが、足利市はまだそこまでの力は持っていない。パークに来たお客様をどう街中に送り出すかが長年の課題です」と語る。

街を灯す「足利灯り物語」への挑戦

 この課題を解決する一つのカギが、2017年から秋に開催されている「足利灯り物語」だ。史跡足利学校や鑁阿寺(ばんなじ)、織姫神社など、市内の文化財をライトアップするイベントである。このイベントにおいて、あしかがフラワーパークは足利学校の演出プロデュースを担当している。「観光協会から委託を受け、イルミネーションのプロとして手掛けています」。花手水(はなちょうず)という、水鉢に色鮮やかな花を浮かべた装飾物がパーク内にあり、同じ飾りを足利学校にも設置するなど、花と光の演出でパークと街をつなごうとしている。


足利灯り物語で飾られている花手水(左)とあしかがフラワーパークで飾られている花手水(右) 
=写真提供:あしかがフラワーパーク

 イルミネーションというパークが持つ最強の武器を、街の遺産と融合させる。この取り組みは、単なるイベント協力にとどまらず、観光客を街中へ誘う重要な導線となっている。

メディアを通じた「草の根」の地域貢献

 華やかなイベント連携の一方で、大島さんはもっと身近で、草の根的な地域貢献も大切にしている。それは、頻繁に訪れるメディア取材への対応の中にある。「例えばテレビ局の方から、『足利市内で新しいお店や人気のお店はありますか?』と聞かれることがよくあります」。そんな時、大島さんはパークのことだけでなく、市内の他店舗を積極的に紹介するようにしているという。「『最近できたこのシュークリーム屋さんが新しくて、まだどこも取り上げていないのでいいと思いますよ』といった具合にご案内しています」。実際にインタビューの数日前に放送されたワイドショー番組などの取材時にも、そうした案内を通じて市内の店が紹介され、多くの客が訪れるきっかけを作った。パークの知名度を生かし、メディアの注目を地域全体へと波及させる。これもまた、あしかがフラワーパークが担う重要な地域貢献の形なのだ。

北関東という「面」での連携

 視野は足利市内だけにとどまらない。茨城県の国営ひたち海浜公園などと連携した「北関東フラワーパークライン協議会」の取り組みもその一つだ。

 「春にはひたち海浜公園のネモフィラを見てから、あしかがフラワーパークの大藤を見るというバスツアーが圧倒的に人気です」。花というコンテンツを軸に、県境を越えて「点」と「点」を「線」で結び、北関東という「面」で観光客を呼び込む。現代の1カ所にとどまらない旅行スタイルに合わせ、広域で魅力を発信し続けることが、結果として地域のブランド力向上につながっている。

「せっかく来たなら地元の味を」

 園内のレストランでは、佐野ラーメンや下野牛、地元・足利のブランド野菜「あしかが美人」など、栃木県の物を使用したメニューがいくつか提供されている。

 「旅行に行ったら、その土地のものを食べたいですよね。千葉の海で宇都宮ギョーザは食べないのと同じです」と、大島さんは笑う。特に県外客に人気なのは、やはり「いちご」だ。「栃木イコールいちご」というイメージは強く、いちごをふんだんに使ったスイーツは、訪れる人々に「栃木に来た」という実感を提供している。地産地消は、地域貢献であると同時に、来園者への最高のおもてなしでもあるのだ。

悲願だった「渋滞解消」とアクセス改善

 18年4月、JR両毛線に新駅「あしかがフラワーパーク駅」が開業した。パークの目の前に駅ができたことは、単なる利便性の向上以上の意味を持っていた。「一番のメリットは、やはりアクセスの改善と周辺道路の渋滞解消です」と大島さんは振り返る。かつて、パークへのアクセス手段は自家用車やバスに限られていた。そのため、藤の花が見頃を迎える春の最盛期には、周辺の国道が激しい渋滞に見舞われることが常態化していた。「ひどい時は、佐野藤岡インターチェンジからパークまで渋滞がつながってしまうこともありました」。観光客だけでなく、地元住民の生活道路にも影響を及ぼしていた交通渋滞。駅の開業は、この問題を緩和し、地域との共生を図る上でも大きな転換点となった。

「交通難民」を救う地域の足として

 新駅の恩恵は、遠方からの観光客だけのものではない。大島さんが強調したのは、地元の高齢者に対するメリットだ。「これからは免許を返納される高齢者の方が増え、自宅から動けなくなってしまう交通難民の問題が出てきます」。以前の最寄り駅であったJR富田駅からは徒歩で15分から20分ほどかかり、高齢者にとっては来園のハードルが高かった。しかし、新駅はパークの目の前だ。「電車であれば、免許を返納した地元の方でも気軽に来ていただけます。駅ができたことは、地元の方が外出を楽しむ手段としても非常に良かったのではないかと思います」。開業に合わせてJR東日本が展開した「デスティネーションキャンペーン(JRグループと自治体が協働で行う大型観光キャンペーン)」の効果もあり、18年の来園者数は前年比約5%増を記録した。観光客の誘致と、地域住民のQOL(生活の質)の向上。新駅は、その両方を結ぶ懸け橋となっている。

進化する植物園~アニメコラボと五感の演出~

 「植物園」という枠を超え、新たな層を取り込む挑戦も始まっている。「最近はアニメやゲームとのコラボを積極的に行っています」。『刀剣乱舞ONLINE』や『【推しの子】』といった人気コンテンツとの企画を実施することで、これまで植物園になじみのなかった若者層や海外ファンの来園が増えているという。「数年前までは、社内にも『植物園なのにアニメ? ちょっと違うよね』という風土がありました」。しかし、日本が世界に誇るコンテンツであるアニメやゲームと組むことは、若い世代やインバウンドを取り込む上で不可欠だと判断し、かじを切った。「新しいことをやっていかないと」と語る大島さんの言葉には、伝統を守りながらも変化を恐れない、パークの進化する姿勢が表れている。

 その姿勢は、園内の演出にも及ぶ。今年からは、老舗香料メーカーと協力し、満開時に採取・抽出した「藤の香り」を会場内で再現する取り組みもスタートさせた。視覚だけでなく「香り」でも魅了する。こうした五感に響く細やかな仕掛けの積み重ねが、リピーターを飽きさせない魅力につながっているのだろう。


藤の香りが楽しめる光の大藤棚

 世界に名をはせるあしかがフラワーパーク。その視点はグローバルな評価だけでなく、駅を通じた住民の足の確保や、アニメコラボによる次世代へのアプローチなど、常にローカルな「地域との共生」と「進化」に向けられていた。  圧倒的なブランド力を生かし、観光客を市内の他の場所にも誘導する「点と点を線でつなぐ」観光、そして伝統を守りながら変わり続けるパークが今後どのような未来を描いていくのか。

 取材班は、大園さくら、福田礼恩、藤田美涼、古内小夏、吉原千春(いずれも宇都宮大学地域デザイン科学部「地域メディア演習」履修者)。

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