若竹の杜

 今回私たち取材班は、「若竹の杜若山農場」を運営する若山太郎さんにインタビューを行い、若山さんの農場への思いや取り組みについて話を聞いた。

【「若竹の杜」取材班】 


竹の魅力や活用について熱心に語る若山さん
 

 「若竹の杜若山農場」は、宇都宮市から少し離れた北西部に位置する。この場所では親子3代にわたり百余年、「農業とは土づくりに在り」を信条に、自然循環型農法で主に筍や栗を栽培している。代々竹と土に向き合ってきた結果、竹が使われなくなった現代では、他に見られない希少な空間となった。

 私たちが取材先として若竹の杜を選んだ理由は、その環境保護への取り組みと宇都宮の観光地としての知名度にある。

 まず、若竹の杜は持続可能な竹林管理を実践しており、化学肥料や農薬を極力使わない方法で竹を育てている。この取り組みは、訪れる人々に環境保護の重要性を伝えるとともに、安心・安全な竹製品を提供している。 

 また、若竹の杜は宇都宮市内でも特に人気のある観光地の一つであり、竹あかりのライトアップが美しい風景を演出している。写真映えする場所としてSNS(ネット交流サービス)で話題になり、毎日多くの観光客が訪れている。

 これらの若竹の杜が実践している環境保護への取り組み、そして宇都宮の観光地としての知名度に魅力を感じ取材するに至った。

 年間約9万人が訪れる「若竹の杜」は、同市内でも有数の観光スポットだ。日常生活において竹の存在が遠くなっている。他の樹木を枯れさせ、「竹害」が深刻化しているといわれる今日、手入れが行き届いた若竹の杜は、竹林の美しい景色を一望することができる。

 以前は観光地ではなく、その名の通り農場としての役割を果たしていた若山農場。なぜ観光地化されるようになったのか。

観光名所 若竹の杜のはじまり

 観光地化のきっかけは、2014年に映画化された「るろうに剣心」の撮影地に抜擢されたことだった。プロモーションを目的として映画の公式アカウントに、ロケ地である若竹の杜がSNSで拡散された。すると特に若い世代のファンが「聖地巡礼」で訪れ始めるようになった。当時は観光地ではなかったため、「せっかく来てもらったなら」と無料開放していたという。

 初めは映画への質問を若山さんに投げかける訪問者たちであったが、竹林を見た後には誰もが口をそろえて「竹って奇麗ですね」と映画のことなど忘れて帰ってくるのだという。そんな姿を見て、「どんな人たちにでもこの魅力は通じるんだという思いを確信に変えてくれた」と、若山さんは笑顔で語る。

 これまでも観光地化したいという思いはあったものの、現実的ではないと諦めてしまっていた。しかしこの出来事が、若山さん自身がずっと感じていた竹林の美しさに自信を持たせ、観光地化へ踏み出す勇気を与えるものになったのだ。

メディアと若者の関心

 「メディアの力ってすごい大きいなってことを、今感じています」と若山さんは語る。若竹の杜が観光地として注目されるようになった大きな要因の一つは、メディアを通じた広がりだという。

 テレビCMなどのメディアを通じた拡がりが知名度の上昇に大きな影響を与えた。特に、『おーいお茶』のような有名なCMの撮影地になることで、多くに人に知られるようになったという。

 また、撮影地として有名になっただけではなく、竹あかりライトアップなどの「映え」を意識したイベントの開催によっても集客できている。

 現在では、訪れる人の半数が若い世代である。「実は僕たちがプロモーションを上手くできたわけではないんですよ」と若山さんは言う。プロモーションが成功した理由はSNSの力であるという。メディアや、訪れてきた若者がSNSでたくさん投稿し、拡散したことで注目されるようになった。今の時代では自分たちの知らないところでさまざまな情報が広がっていく。SNSは、誰が発信者であるか分からない中で「どのような動機であっても、訪れたすべてのお客様に満足して帰ってもらいたい」という思いを大切にしているそうだ。

交通の課題


2色の竹に彩られた小道を散策する取材班

 若山さんが現在重要視している課題の一つが、交通の不便さが抱える課題である。宇都宮駅から若竹の杜までは、バスを利用すると約40分。決して近いとはいえない。若山さんは、「宇都宮は観光の街ではないので、皆が素通りしていってしまう場所だ」と話す。電車で来ても改札を出ることなく通過し、車でも休憩地点として宇都宮のパーキングに寄るだけで、インターを降りる人はあまりいないという。

 若竹の杜では、最も目立つ場所にある建物が「トイレ」だという。「トイレ休憩しながらついでに竹林散策をしようかなという需要が実はたくさんある」と語る。そのため、トイレを充実させ、宇都宮に足を運んでもらえるような工夫を行っている。

 また、外国人旅行者に向けたプロモーションを行っていく上で、特に2次交通による観光機会の損失が今一番の課題だと若山さんは語る。2次交通とは、拠点となる駅等から観光地までに利用する交通機関である。例えば、新幹線で宇都宮に訪れた際、若竹の杜に向かうには2次交通としてバスを利用する。

 駅に置いてある英語と中国語のパンフレットは月に1000~2000部程出ているが、実際若竹の杜にはそれほど来ていないという。バスの乗り口が分からない、料金が分からない、といった乗り継ぎの複雑さが機会損失の原因となっている。若山さんは、「これらの課題をただ課題とせず、バス会社に働きかけながら改善をしていく。外国人旅行者が今後さらに増加する手応えを感じているので、改善しながら増やしていきたい」と力強く語った。

竹とSDGs

 若竹の杜では、抹茶を販売する際に紙コップではなく農園で栽培された竹の器を使用している。また、利用されている竹の器は持ち帰ることができるという特徴がある。「竹をどんどん消費したい。竹を有効活用することで皆さんに喜ばれる。竹を使うことは小さなSDGsになる」と若山さんは語る。

 若山さんの思いが実を結んだのか、最初は一日100杯ほどだった抹茶の販売の規模が、今では一日500杯ほどまでになり、竹の消費量も多くなってきているそうだ。「持ち帰ることができ長持ちで環境にも優しい竹には新たな資源としての価値がある」と若山さんは、行く末を期待するような笑顔で語っていた。

竹とカーボンニュートラル

 さまざまな理由で利用が困難な竹は、細かく刻んだチップになる。若山農園ではこのチップを竹林にまいて還元している。まいてから2年ほどでチップは腐って養分として土にかえり、たけのこが一段と良くなるように働く。若山農園での栽培は、竹林の中で炭素を循環させるカーボンニュートラルの発想と通ずるものがあり、持続的な栽培であることが特徴である。

 「チップを竹林に還元することによって派生したものを、その中でうまく利用してあげる」。きれいな竹林とおいしいたけのこを作っていくうえで、竹には自然の中でのびのびと成長してもらいたい。そのため、人間が手を加えることは最小限に、余計なことはしないように心掛けているそうだ。

 最近になり知名度が上がったSDGsだが、若竹の杜では観光地として農園を開放するよりはるか前から持続可能な栽培を行ってきた。「炭素を貯金する」という思いをもとに、これからも若竹の杜では美しい竹林とおいしいたけのこを栽培していく。

地域連携や今後の展望


若竹の杜内に設けられた竹製のオブジェ
独特の静寂感を漂わせている

 

 若竹の杜の敷地内にあるレストランでは、施設内で収穫されるタケノコに加えて、地元の農家が手掛けた新鮮な農産物もメニューに取り入れている。この取り組みによってカフェのメニューの幅を広げるだけでなく、観光客が地元の農産物を味わうことで、気に入った食材を直接購入できる機会を創出している。加えて若竹の杜では、宇都宮にある大谷地域や餃子会、プロバスケットボールチームのブレックスと協同し、宇都宮に周流してもらえるように協議を重ねている。

 宇都宮はギョーザを食べるために毎年1000万人以上の観光客が訪れる。観光客がギョーザだけを食べて帰るのではなく、観光地間の連携を通して宇都宮地域内に周流し観光してもらうことで、宇都宮全体の経済効果をより一層高めることが期待されている。

 今後の展望としては引き続き「竹」をテーマとして掲げ、竹に親しみを持ってもらえるよう尽力していくそうだ。幅広い年齢層に訪れてもらうために、特に若い世代に着目し、SNSをはじめとしたデジタル媒体を通してより多くの人に竹の魅力を発信していく予定だ。若山さんは「竹を身近に感じてもらうことで、日常生活に竹を取り入れ、興味を持ってもらえる取り組みを展開していきたい」と若竹の杜の未来を笑顔で語った。

 地域連携を軸とした持続可能な観光の形を模索しつつ、竹文化の普及を図る若竹の杜。地元農家や観光地との協働が生み出す新しい可能性に注目が集まっている。

 取材班は、小林秋翔、大氣理沙、後閑綺香、佐柄凜花、渡辺結衣、丸山咲乃(いずれも宇都宮大学「地域メディア演習」履修生)

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