「府内五番街商店街」は、大分市の中心部にある商店街である。ヨーロッパの石畳風の街並みをイメージ化した街路が特徴で、セレクトショップや飲食店が立ち並ぶ。同商店街の魅力について、府内五番街商店街振興組合の役員たちに聞いた。
【大分県立芸術文化短期大学1年・永安夏綺、森口さくら、八木原采巴】
インタビューした人たち
府内五番街商店街振興組合副理事長 田口和恵氏
〃 副理事長 高取詳子氏
〃 副理事長 藤井俊之氏
〃 理事 岩尾雄哉氏
――府内五番街商店街の一番の魅力は何ですか。
田口:歩行者天国があるところです。昼の12時から翌朝5時まで車両通行止めになっており、この時間帯は自由に買い物や食事が楽しめます。また商店街には、オシャレで個性的なお店がたくさん集まっています。ポルトガル、インド、フランスなどの専門料理店もあり、多国籍なところも魅力的です。
高取:アーケードを造らない商店街は非常に珍しく、魅力の一つになっています。また石畳の通りが美しく、他県から視察で訪れる人も多いのが特徴です。
岩尾:私も石畳だと思います。結婚式の撮影に来る方も多いので、石畳の異国風な景観が珍しいのだと思います。

府内五番街商店街振興組合副理事長 田口和恵氏

府内五番街商店街振興組合副理事長 高取詳子氏
――皆さんが思う五番街商店街が誇れるところを教えてください。
田口:理事が結束して、頑張ってまちを盛り上げようとしているところだと思います。組合の人たちも協力的で、商店街の93%の店舗が組合に加盟しています。理事たちと組合員が皆でまちを盛り上げようと努力しているところが誇れるところです。
高取:コロナの時期くらいから、商店街でセミナーを年に3~4回開催しています。組合員向けに開催し今後、どのようにしてまちを盛り上げていけるかを考たり、SNS(交流サイト)の有効な活用法などのセミナーを継続して開催しています。このような取り組みは珍しく、我々としても誇りに思っているところです。
――現在はさまざまなイベントを行っていますが、昔との違いはありますか。
藤井:イベント自体は昔から商店街で行ってきました。過去には稚児行列や屋台を商店街に呼んでイベントを行っていました。しかしこのようなイベントは「飲食で勝負をしている人を邪魔している」とのクレームがあり、組合員が喜ぶようなイベントをしようと方向転換をしました。そのきっかけが15年前です。まずお店を回遊してもらうために行ったのが、「オクトーバーフェスト」というビール好き人のためのイベントです。それぞれのお店で異なる種類のビールを置き、お店をたくさん回ってもらう工夫をしました。また商店街をコミュニティの場にするために、「ジャズフェス」というイベントを行いました。地域でジャズを奏でるのが好きな人と、ジャズを聴くのが好きな人が交流できる場を設けてきました。
高取:15年以上前は、商店街の集客を狙ったイベントがなくても自然とお客さんが訪れていました。しかし現在は、何の工夫もなしに集客することは難しくなってきているのが現状です。そのため皆で知恵を出し合いながら、集客活動に取り組んでいます。
――イベントを開催する際、どのようにして人を集めているのですか。
岩尾:一番効果的で最近、特に活用しているのはSNSです。プロのインスタグラマーさんに掲載を依頼して、より多くの人々に知ってもらえるように工夫しています。一度、テレビCMを打ってみたこともありましたが、ほとんど効果はありませんでした。それ以降、SNSを中心として集客活動を行っています。写真より動画を多く投稿することで、商店街の魅力をリアルに伝える工夫をしています。
――イベントに対するお客さんの反応はどうですか。
藤井:「ジャズフェス」「はしご酒イベント」「ハロウィン」「餅つき」などのイベントはとても人気があります。商店街全体がコミュニティーの場となることが、お客さんにとっても楽しいのではないかと思います。
岩尾:私たちは、常にお客さんの皆さんが「今日は来てよかったね」と楽しんで帰っていただけるようにと考え、努めています。そういった喜びが、特に感じられたのがこの四つのイベントかもしれません。

府内五番街商店街振興組合副理事長 藤井俊之氏

府内五番街商店街振興組合理事 岩尾雄哉氏
――イベントを行ってきたなかで変わってきた点や、印象があれば教えてください。
藤井:昔から大分市では「生音があふれる街を作ろう」というスローガンがあります。大分市は「西洋音楽発祥の地」というコンセプトがあり、音楽での街づくりが提唱され、街中で生音が聞ける音楽イベントが頻繁に行われています。そういう意味では、それを楽しもうとして来てくれる人は増えました。
ただ、いまはイベントが飽和状態になり、自分の欲しい情報が入らないような情報過多の時代になっているようにも思います。自分のやりたい、行きたいイベントが気付かないうちに終わってしまっている、ということもあるようです。
印象としては、他の商店街と比較すると府内町が多くのイベントを実施しているため、「府内町は元気があるね」って思ってくれている人は結構います。正直言って、JR大分駅にはアミュプラザ大分ができ、アーケードのある中央商店街の方はたくさんの人が行き交っているので、店を出したいと思う人はアーケードの方を最初に考えるようです。しかしイベントをたくさん行うことで、他と比べて府内町は活気があふれ、人が見えるとよく言われるようになりました。そのため「元気そう」「楽しそう」という印象は確実に広がっていると思います。
――今までで大変だと思ったこと、やってよかったと思えることは何ですか。
岩尾:イベントはやるからには毎回、全力でやっていますが、それがとても大変です。前準備から色々な段取りと打ち合わせを重ね、とても時間がかかります。特に副理事長や理事は、ボランティア(無償)で手伝いをしている部分が多いため、これらの大変さを皆さんに理解してもらい、いろいろなところで協力してもらえるのはありがたいな、という思いがあります。
藤井:イベントは、段取りがすべてです。当日というのは残りの2割ぐらいで、実は7~8割ぐらいが段取りにかかっています。大体イベントの3カ月前ぐらいから動きだして、最低でも1カ月前には告知できるようにしています。段取りが失敗すればイベントも失敗するし、段取りが完璧なら、当日は動かすだけだから楽になります。周りから見たら多分、イベント当日の方が大変に思われるかもしれませんが、実は段取りの方が大変で、仕事でお金もらえてやっているのだったらまだ良いのですが、我々はボランティアなので、本来の職業を皆が持っているなか、空いた時間を何とか作り出して取り組んでいる状態です。そのため最近は、場所を貸して外部の人にイベントを行ってもらうことにも取り組んでいます。年間通して2回ぐらいは自分たちで真剣にやるイベントをやって、それ以外は外部の人を受け入れてイベントを実施し、皆が「Win-Win」の関係になることを目指しています。
――まちを活性化させるために心掛けてしていることは何ですか。
藤井:活性化は一つでできることではないと思っています。外から人が来てホテルに泊まり、街中で買い物をして、飲んだり食べたりしてくれることが活性化につながります。だからこそ、いかにして人を外から引っ張ってこられるかが重要だと考えています。そしてそれと同じくらい、地域に住んでもらうことも大事です。私たちが街中の活性化を考えたときに、個々の点と線で考えていても全く意味がないのです。面として捉え、大分市の中心市街地がどうなれば活性化するのかという考え方をしていかないと、根本的解決にはならないと思っています。表面だけで見える問題点を一生懸命解決しようとしていても、根本的な解決には至りません。そこで私たちがやっているのは、表面的な問題の解決もやりつつ、根本的な部分も良い方向に持っていけるように行政に対して政策提案もしています。問題点を見るだけでなく、全体を見ることで、すべてにおいてプラスにつながっていくと考えています。
――今後、挑戦してみたいイベントはありますか。
岩尾:逆に皆さんだったら、どのようなイベントをしたら来てくれますか?
八木原(学生):私は音楽が良いなと思いました。私は長崎出身で、住んでいた場所で音楽が身近にあることが少なかったので、音楽が聞こえてくるのはひきつけられるなと感じます。

FUNAIまちなかジャズ2025の様子
岩尾:いま我々が行っているイベントで来て頂ける方々は、年配の方が多かったり、子連れのファミリー層が多かったりします。ですので次は、若い世代の学生さんたちが来てくれるようなイベントを試してみたいと思っています。内容はまだ分かりませんが、皆さんのような大学生の世代が興味や関心を持ってくれるようなイベントを考えていきたいです。
田口:最近ヒアリングをする機会でよく出てくるキーワードが「推し」です。推し活にお金を使う人が増えるなかで、それに関連したアニメやガチャガチャなど、学生さんたちが来たくなるイベントをやってみたいです。
――府内五番街をどのような場所にしていきたいですか。
高取:商店街ですので、商売する立場から考えたら、たくさんお客様に来て頂いて、府内五番街ってすごく良いものもあって、楽しいということを一番に考えていきたいのですが、そこにたどり着くまでがすごく難しいと思います。例えば、いまの若い方は服をネットで買ったり、大型商業施設で買ったりと、コストダウンしているものを買う傾向が増えていると最近は感じています。府内五番街では、賃料を毎月オーナーさんに支払いながら商売をするので、チープな感じではなかなか商売が成り立ちません。どこを向いて商売をしていくのか、どのようにこの通りをブラッシュアップしていくべきなのか検討をすることが必要です。イベントもそうそうですし、五番街らしさといったところを追求していきたいです。
岩尾:私たちが皆さんぐらいの年代のころ、つまり20年以上前は、オシャレな人は服を買いに行くのであれば府内五番街で買うよね、という雰囲気がありました。だから私はアパレルに携わっている身なので、そのような時代に戻したいと思っています。オシャレな人は、大型店舗ではなく府内五番街に服を買いに行くよね、というようになればと思っています。
――府内五番街の最も伝えたい魅力とはどういったところですか。
田口:伝えたい魅力は、大分のなかでも、ワンランク上の通りということでしょうか。東京であれば青山、表参道、銀座といったような。そのような通りを私は目指しています。オシャレな人が集まるとか、ちょっと良いものを食べたいというニーズに応え、人との関わり合いも充実しているようなまちです。
岩尾:お店のオーナーとお客さんと距離が、とても近いことだと思います。飲食にしても物販にしてもそうです。普段、なかなか洋服を買いに行ったお店の社長と話す機会はないと思いますが、府内町ではそれができるところが魅力の一つだと思います。
――府内五番街では学生との共同イベントを開催していますが、コラボイベントを行おうと思ったきっかけを教えていただきたいです。
田口:大分県立芸術文化短期大学(芸文短大)の皆さんとの活動の歴史は長く、もう15年ほど前からになるかと思います。確か大学の方から依頼があって、始まったのか最初だったと記憶しています。昔は7月ぐらいに学生さんが浴衣着を着て、子供向けのイベント、ダンス、音楽イベントなどを行ってもらっていました。いまは10月下旬ごろに、ハロウィンをイメージしたイベントや、「ふないキッズフェスタ」といって、家族連れで楽しめるイベントを学生の皆さんが企画・立案して実施してもらっています。市内の園児の皆さんに描いてもらった絵を約千個の牛乳パックに張り付けて点灯する「キャンドルナイト」は、もうこの府内町では定番のイベントになっており、多くの人達に来場してもらえるイベントになっています。

学生が企画した「ふないキッズフェスタ」の様子

ふないキッズフェスタ2025を実施した学生達
――最後に大分県立芸術文化短期大学の学生へのメッセージをお願いします。
田口:いつも商店街の活動を助けてもらっており感謝しかないです。私は「FUNAIまちなかジャズ」の実行委員長を担当していますが、毎年、一緒にドラムを組み立てたり、皆で会場作りをしたりして本当に助けてもらっています。学生の皆さんと一緒に、にぎわいを作っているという感じがしています。今日、芸文短大の皆さんが実施している「ふないキッズフェスタ」は、我々がサポートにあたるという意味で逆バージョンのような形ですが、昼は子連れの親子の皆さんを商店街に集めて頂き、夜はランタンを使ってまちに「彩り」を創出して頂き、本当に感謝しています。ありがとうございます。
岩尾:私は1昨年ぐらいから芸文短大の皆さんを支援しています。皆さんと一緒にテントを出したり、椅子や机を出したりして、お手伝いをさせて頂いています。いま私は会社員ではなく、開業して自分の店を持っていますが、そうしようと思ったのがちょうど皆さんと同じぐらいの大学生のときでした。皆さんにもこのようなイベントを通じて、色々な経験を積んでもらい、人生の方向性を決める一つの材料にしてもらえれば嬉しいです。
高取:今日のようなイベントがない時、どのようにして学生の皆さんと、この府内五番街のような商店街とが関わりを持ち続けることができるのかが課題だと思っています。イベントを単なる花火みたいに打ち上げて終わるのではなく、人とのつながりや継続が大事だと思っており、その方法を是非、一緒に考えていきたいです。また大人になって働き出したら、買い物はやっぱり府内五番街だねと言って訪問してもらったり、結婚して子ども連れて今日のようなイベントに参加するために訪問したりしてほしいです。このように学生時代や卒業したあとも、ずっと府内五番街に関わってくれることを願っています。また商店街の店舗で働いてもらったり、この街をずっと大好きでいてもらたりするとうれしいです。
学生記者一同:今日はお忙しいなか、貴重なお話をありがとうございました。

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