「とうきびフェスタ in 菅生」を振り返る 

 大分県竹田市菅生(すごう)地区は、熊本県阿蘇市に接した地域で、とうきび(トウモロコシ)の産地として有名である。同地のとうきびが全国的に有名になったきっかけの一つとして、長年にわたって取り組んできた「とうきびフェスタ in 菅生」の存在がある。そこで、おおいたキャンパるの取材班では今回、とうきびフェスタの実行委員長を長年務めてきた、山岡正近氏と、竹田市で農商工連携コーディネーターを務める佐藤知博氏から話を聞いた。

【大分県立芸術文化短期大学2年・帆足奈々花、姜祉言、後藤うた】

当初の課題 ― 地域ブランド化以前の「菅生のとうきび」が直面していた壁

山岡:竹田市菅生地区は、標高が500メートルぐらいあり、1日の寒暖差が大きいことから、とても甘いとうきびが栽培できます。菅生地区のとうきびは、いまでこそ九州屈指のスイートコーンの産地として全国的に知られるようになっていますが、昔はお隣の「阿蘇産(熊本県産)」といった広域ブランドの影響もあり、独自の価値が埋もれがちでした。

特に昭和30年代からずっと続いていたとうきびの価格低迷に、生産者たちは疑問を抱いていました。「こんなに甘くておいしいのに、どうして正当な評価を受けていないのか」との思いが高まり、少数の生産者が集まり「とうきびフェスタ in 菅生」の開催に向けて動き出すことになりました。またこれほど甘いのであれば、独自のブランド化もできるであろうという考えで、「すごあまこーん」という名称で商標登録も行いました。

この地域の農業は、標高が高く丘陵地が多いなどの複雑な地形、農地整備の遅れ、人口減少や高齢化に伴う担い手や人手不足など、構造的な問題が山積しています。そのようななかでも生産者たちは「もっと我々が作ったとうきびを評価してほしい」「とうきびを使って地域を活性化したい」という熱い思いと危機感を胸に、小さな声が徐々に形となり、行動へと変えていったのです。

竹田市とうきびフェスタ実行委員長の山岡正近氏

「とうきびフェスタ in 菅生」の創出 ― 小さな種からブランドが芽吹くまで

山岡:2006年頃、菅生地区の生産者の有志が集まって、「もっと菅生のとうきびを知ってもらいたい」という思いから、「とうきびフェスタ in 菅生」を企画・開催しました。会場となった道の駅すごうでは、青果や加工品の直売や収穫体験、地域住民による催し物など、工夫を凝らしながら地域をPRしました。その結果、回を重ねるごとに来場者は増え続け、多くの人に楽しんで頂き、大盛況となりました。

このイベントは、地域の魅力を発信する重要な機会となり、菅生産のとうきびを地域ブランド化する第一歩となりました。生産者の方々は、地域特産品としての価値を再認識し、ブランド化に向けた取り組みを本格化させました。このなかで、とうきびを使ったコーンスープやソフトクリームなどの加工品も、新たに開発されました。

学生によるとうきびフェスタでの青果販売支援の様子

芸文短大生の協力 ― 若い視点で情報拡散の波が生まれる

佐藤:大分県立芸術文化短期大学(芸文短大)情報コミュニケーション学科では、サービスラーニング(実践型の地域貢献活動)が大学の必修科目として取り組まれており、学生の皆さんがキャンパスを飛び出し、地域での活動を通じて、コミュニケーション力や主体性を高め、問題解決力を体得する取り組みが実施されています。その一環として、2009年から私が食育ツーリズムをコーディネートする形で関わってきました。参加した学生の皆さんは前日から農家民泊をし、翌日早朝から畑で甘いとうきびを生で試食し、とうきびの収穫支援をしてもいました(コロナ禍以降は、農家民泊は中断中)。またとうきびフェスタでは、学生の皆さんが笑顔で販売スタッフとして呼びかけたり、インターネット上で体験や活動風景を情報発信したりと、デジタルとリアル双方で地域活性化に取り組んでもらいました。

とうきびの収穫支援の様子

こうした若い学生の皆さんの声は、特にインターネットで拡散力を発揮し、地元の盛り上がりをそのまま映し出す投稿が多くの人々の目に止まり、テレビ・雑誌・新聞の取材につながるなど、地域の取り組みを全国に知ってもらう一つのきっかけとなりました。

農商工連携コーディネーター・佐藤知博氏

「鉄腕!DASH!!」で大注目 — 菅生のとうきびが全国へ

佐藤:芸文短大の学生の皆さんが長年にわたって情報発信をインターネット上で展開してくれたおかげで、2014年にテレビ番組「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)で「すごあまこーん」が取り上げられることになりました。どうもテレビ局のディレクターの方が、学生の皆さんの情報発信を見たことがきっかけで、問い合わせがあったようです。テレビでは、実際にTOKIOのメンバーが、畑でもぎたてのとうきびを生で食べ、その甘さに感動したことが放映され、一気に全国の視聴者の注目を集めることになりました。この放送がきっかけで、とうきびフェスタや菅生地区にとうきびを直接、買い求める来場者が激増することになりました。これらは芸文短大の皆さんによる、複数年にわたる活動と宣伝効果のおかげだと思っています。

地域ブランド化が成功

山岡:以上のような経緯や、生産者の日々の努力もあり、「すごあまこーん」の人気は大分県内だけなく、広く九州一円にまで広がるようになりました。また首都圏を中心にインターネットの通販販売で購入する方々も増えています。当時、1本60円ほどの安値で推移していたとうきびの値段も上昇し、いまでは1本が200~250円程度で販売され、農家の方々の所得向上にもつながっています。また菅生地区で生産されるとうきびは毎年、売り切れるほどに好評を頂いています。

地域ブランド化が成功したことにより、生産者の方々の意識や技術はさらに向上し、甘くておいしい「すごあまこーん」の名に恥じないように日々、努力を積み重ね、お客さんに商品を提供し続けています。

インタビューを通じた感想

取材班:今回の聞き取り調査により「すごあまこーん」の地域ブランド化の過程とその影響、地方の農業の課題や可能性を深く理解することができた。そのなかでも、特に地域農業が抱える課題に対する生産者の方々の努力が印象的であった。また若い世代のインターネットやSNSを活用することによるメディアへの露出が、地域活性化において重要な役割を果たしていることが特徴的であった。情報発信を通じた地域づくりやブランド戦略の重要性を、強く再認識することができた。

最後に竹田市は全国的に見ても高齢化率が高く、農業分野では人手不足や後継者不足といった問題が顕在化している。そのために、まずは若者が現地に行って農業を体験し、その素晴らしさや面白さを知ることが大事だと思われる。いきなり移住・定住とまではいかなくても、まずは「交流人口」を拡大することが望まれる。

サービスラーニングに参加した学生達

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