「日本一貧乏かもしれない動物園」という不名誉なキャッチコピーをつけられてしまった動物園をご存じだろうか。JR宇都宮駅西口から路線バスで30分、宇都宮市のはずれにそんな不名誉なキャッチコピーの宇都宮動物園は位置している。今回取材班は、宇都宮動物園の園長である荒井賢治さんに宇都宮動物園について取材した。 【宇都宮動物園取材班】
宇都宮動物園は「自然とどうぶつとこどもたち」をテーマに1981年に民営の動物園として開園した。現在、目玉のホワイトタイガーをはじめとしたキリン、ゾウ、サル、ライオンなど70種類、400頭の動物を飼育している。動物とふれあえることを魅力として併設している遊園地とともに家族連れを中心に楽しまれている。
客足の現状と課題
宇都宮動物園はコロナ禍により経営が厳しい状況が続いていたが、現在、経営が改善してきているという。来場者の観点から見ると、最近は徐々に増加傾向にあり、コロナ禍の約19万人から2024年は22万人にまで増加した。この数字はコロナ禍以前よりも大きいという。しかし、来場者の内訳を見ると、基本的に家族連れや、小学校や中学校の学生などが多い。園長の荒井さんは、「少子化が急激に進行している今、来場者の年齢層を上げなければ、今後、運営が難しくなる」と険しい表情で語った。
その解決策のひとつとして、宇都宮動物園は栃木県内の動物園で初となる「登録博物館」になった。宇都宮動物園は民間の動物園であるため、これまで博物館に登録することができなかった。しかし、22年の法改正により、登録可能な団体の範囲が国と独立行政法人を除く、あらゆる法人に拡大された。そこを契機に、宇都宮動物園を博物館として登録したという。登録博物館になるメリットは、登録博物館として認定されることで、学術的な価値を重視し、博物館としての基準を満たしていることが公的に評価されることであり、荒井さんは、「宇都宮動物園をただ『遊びに行く』場所ではなく、『学びに行く』場所として、子どもから大人まで楽しめる 動物園を目指したい」と強い意志を見せた。
その一方で、運営の観点から見ると、宇都宮動物園 は民営であるため、行政からの補助金がなく、財政的に厳しい現状がある。そのため、動物園や遊園地の売り上げでイベントや施設管理費用などのすべてをまかなわなければならない。今後、より宇都宮動物園の魅を広く発信することで来場者数を増やし、収益を上げていくことが課題となる。
人材面での強み
働いているスタッフは、20代が多く、30代から40代の方が少ない傾向にある。よって、教える側と教えられる側の考え方や感じ方に大きなジェ ネレーションギャップが生まれてしまうという。荒井さんは、「ギャップがあるからこそ、教える側が若者の考えを学ぶ必要があり、それが時代に沿った動物園の運営ができるひとつの要素になる」と述べた。
加えて、経済的なこと以外は、若手のスタッフが自由にイベントの企画から実行までのすべてを担当している。先輩はほとんど口出しをせず、自由な体制をとっている。この仕組みによって、古い考え方にとらわれず、新しいアイデアが生まれやすくなり、将来の動物園の存続につながるのだという。実際に若手スタッフが考案したイベントとして羊毛などを利用して飾りのリースをつくる工作教室や、ペンギンの抜けた羽を販売するといったものがある。これらは経費がかからず参加者にも好評で成功を収めた。
福祉としての課題
宇都宮動物園は、動物を第一に考え、負担がかからない取り組みを行っている。ただ、運営に関して苦悩を抱いており、「経営を続けることも大事だが、動物福祉の視点も重要である」と語った。これまでの動物園は人間本位の動物を「見せる展示」であり、動物の権利を無視しているものが多く存在した。そこで、荒井さんは旭山動物園(北海道旭川市)の「行動展示」の例を挙げた。
旭山動物園では、かつて来場者不足から閉園の危機に陥った過去があり、現状打破のために、1997年に行動展示を実現し日本での行動展示の先駆者となったという。行動展示とは、動物の本来の能力や習性、生態を最大限に引き出す工夫を凝らした展示方法であり、動物がありのままの姿で「見られる展示」となったのである。生きているものに対して命を大切にしようとする意識 は、動物の生き生きとした姿を見せる。「行動展示は 結果的に動物の『良い顔』を作ることができる。これが、動物福祉につながる」と荒井さんは語った。同時に、動物福祉の 実現の難しさも感じているという。動物福祉は世界基準であるため、日本に取り入れる際、そぐわない部分も出てくる。海外では広大な土地で動物を飼育することができる。しかし、日本の多くの動物園ではそれが難しい。宇都宮動物園は、動物福祉の難しさに直面しながらも、動物の健やかな成長のために、日々奮闘している。
連携による地域活性化
地域貢献事業として栃木県内外との団体と連携している。県内での事業として、地域遺産である「夫婦(めおと)杉」を擁する智賀都神社の地域おこしを計画しており、また栃木県内の他三つの動物園・水族館と協力し数日にわたる婚活ツアーを企画している。また、宇都宮駅西口方面への拡張を画策するLRT(次世代路面電車)とも新商品の開発や新たな観光資源の創出の計画を進めている。
県外の団体との連携として「FIGHT11」があげられる。「FIGHT11」は栃木県、茨城県、群馬県、福島県、山形県にある11個の動物園・水族館が連携して、生き物との触れ合いの場を提供するプロジェクトだ。元々は2011年から北関東の6園館での連携から始まったものだが、年を追うごとの参加する園館の数は増えていき24年4月に山形県の鶴岡市立加茂水族館が加わったことで、広大かつ強固なネットワークとなった。活動例として「みんなの那珂川プロジェクト」と「パスとく」が挙げられる。「みんなの那珂川プロジェクト」は那珂川流域の山、川、海3カ所でボランティアと一緒にゴミ拾いを行う活動だ。プロジェクトとしては22年からはじまったものだが、那珂川のゴミ拾い活動自体は11年間続けている。県境をまたぐつながりにより広範囲かつ相互性のある自然保護活動が可能となっている。また、「パスとく」とは各園館の年間パスポート所有者が相互割引などの特典を受けることができるサービスである。このサービスにより一つの施設だけでなくFIGHT11全体での集客を図っている。
日本一貧乏かもしれない動物園の真実
宇都宮動物園の認知度をあげた「日本一貧乏かもしれない動物園」の真実についても語ってもらった。そもそもこのキャッチコピーは2000年代のテレビ番組で紹介されたものであり、制作に関与しなかったがためにこう紹介されたらしい。「日本一貧乏」と紹介されたのは、平日の来園者のいない時間帯に取材をうけたことと、ほとんどの施設が古いままだったことが原因だという。ただ、この紹介のされ方について荒井さんはとくにこだわっていないという。実際に認知度の向上にはつながっており、イメージとのギャップで来園者の記憶にのこりやすくなるので戦略のうちだと語っていた。実際に取材を行った日曜日には多くの家族連れでにぎわっていた。

証券マンから園長へ、衝撃の転向
荒井さんは元々証券会社に勤めており動物とは無関係の人生を送っていた。転機が訪れたのは2003年、前園長だった荒井さんの父が体調を崩したことで園長に就任。就任当時は業界素人ということで就いてきてくれるスタッフはほとんどいなかったそうだ。
ただ、必死に動物に関しての知識をつけ、飼育関連は熟練のスタッフに任せ自身は、経営と運営の責任と人事に専念した。この選択と証券マン時代の人脈と知識の活用により成功をおさめている。飼育関連はスタッフに一任していることについて「自分は責任を負うだけでいいから」と笑顔交じりに語っていた。実際に取材して感じた園長の印象は、とても明るく前向きな人だということだ。来園者にどうすれば楽しんでもらえるか、スタッフが働きやすい環境になっているか、そして何より動物たちが幸せに過ごせているかを常に考えている。その姿勢は園全体に広がり、園内には自然と笑顔があふれている。園長の人柄こそが、宇都宮動物園を温かく魅力的な場所にしている理由なのだと納得した。
宇都宮動物園の他園に負けない〝強み〟
取材の最後に宇都宮動物園の強みについて語ってくれた。宇都宮動物園では、直接飼育員が来場者にガイドを行う。例えば、ホワイトタイガーのガイドは見学者の参加型であり、見学者は説明を受けながらエサやりをすることができる。さらに、ほとんどの動物は非常に至近距離で触れ合うことができる。これは宇都宮動物園最大の強みであるという。荒井さんは、「普段、見るだけの動物とも間近で触れ合えるからこそ、他の動物園よりも強い企画力を持つ」と自身に満ちあふれた声で話してくれた。
取材班は、河野辺恵祐、黒澤世龍、齋藤はな、佐久田和樹、千葉和博、野田沙希(いずれも宇都宮大学地域デザイン科学部「地域メディア演習」履修生)。



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