通勤者や通学者でにぎわう朝の JR 宇都宮駅西口。1 時間に 100 本を超えるバスが多くの利用客を乗せ発車していく姿はまさに圧巻だ。関東自動車(本社・宇都宮市)は、「関東バス」の愛称で親しまれ、98 年間栃木県民の足として地域を支えてきた。今回取材班は、関東自動車路線バス部の福島崇文さん、ロープウェイ部・高速バス部の小林弘人さん、路線バス部の星野雅裕さんに話を聞いた。【関東バス取材班】

地域とともに 100 年の歴史を紡ぐ
関東自動車は栃木県を中心に地域の移動を支え続けてきた路線バス事業者である。1925 年に関東自動車商会として発足し、戦前から戦後にかけて県内の事業者との統合を重ねながら路線網を拡大してきた。現在も通勤・通学など日常の足として 1 日約 5 万人に利用されている。さらに、那須ロープウェイの運営を行うなど、観光分野にも関わり、地域の魅力発信にも貢献している。また、プロバスケットボールチームの「宇都宮ブレックス」やプロサッカークラブの「栃木シティ FC」といったプロスポーツチームとの協働を通じ、ラッピングバスの運行や人材採用などの取り組みも進めている。運転士不足や利用者減少といった課題を抱えつつも、関東自動車は新たなチャレンジを繰り広げている。
みちのりホールディングスの傘下企業として
関東自動車の強みは、宇都宮市は全国的に見てもバス利用率が高い地域であることである。2012 年に公共交通事業者で構成する「みちのりホールディングス(HD)」(本社・東京都千代田区)のグループ企業になったことにより、グループの他のバス事業者と連携を行うようになった。地方のバス事業者は地域密着型であるがゆえに、他地域の取り組みに触れる機会が限られる場合もある。みちのりグループ入りしたことで、他の地域のバス事業者との連携が生まれ、より良い施策を実施できるようになっている。また、栃木県北部から中部にかけて路線網を展開していた、東野交通(本社・宇都宮市)と合併したことで、路線バスの重複を解消し、より効率的なバスサービスを提供するようになった。
電気バス運用のリーダーに向けて
関東自動車は現在、バスのエネルギーマネジメントシステムの開発とあわせて、EV バスの導入を進めている。バスのダイヤ編成やリアルタイムの運行情報に基づき、電気を地域全体で効率的に利用できるようにするためのシステムで、この取り組みは国の「グリーンイノベーション基金事業/スマートモビリティ社会の構築」プロジェクトに採択されている。電気(EV)バスの導入状況は 24 年度までに 10 台、25 年度は 20 台導入しており、29 年度までに市内で運用する大型車の 7 割にあたる 158 台を電気バスに置き換える予定である。なかでも 25 年度に導入された車両は、ジェイ・バス宇都宮工場で生産された国産車を採用し、地元経済の発展にも寄与している。また、宇都宮市は 50 年に「二酸化炭素実質排出ゼロ」を目指すゼロカーボンシティを宣言しており、市の脱炭素化にも貢献する取り組みだ。
この取り組みにおける課題は「まだ導入して間もなく、これから多くの EV バスを運用していくにつれて見えてくるのではないか」と福島さんはいう。関東自動車と同等の台数を運用している事業者は国内では限られ、課題は未知数の段階であり、みちのりHDと関東自動車が電気バス運用の先駆者である。電気バスの運用が従来車と比較して事業者にとって負担となり、全国的な電気バスの普及が滞ることがないよう、バスEMSの開発をグループ全体で進めていくという。関東自動車は電気バス運用のリーディングカンパニーを目指して取り組みを進めている。

地域交通とスポーツの共生へ バス運転士不足解消に「デュアルキャリア」導入
宇都宮市を拠点とするバス事業者が、地域活性化と人材確保の新たな一手として、県内のプロスポーツチームやイベントとの連携を加速させている。
特筆すべきは、「栃木シティ FC」との包括的なパートナーシップ協定だ。深刻化するバス運転士不足と、プロを目指す選手の資金・練習環境の確保という双方の課題を解決するため、人材と資金面での「Win-Win」な関係構築を図る。
具体的には、選手が午前中を練習に充て、午後はバス乗務を行う「デュアルキャリア」支援を採用。大型2種免許を持たない選手に対し、会社側が取得から全面的にサポートする。選手に安定した生活基盤を提供しつつ、未経験からの育成で運転士不足の解消を目指す画期的な取り組みだ。
B リーグ「宇都宮ブレックス」との連携も強固だ。ファン向けシャトルバスや選手輸送の提供に加え、26 年 2 月には冠試合(スポンサーマッチ)を開催した。会場ではラッピングバスの展示やPRブースの出展を行い、相乗効果による認知拡大を狙う。このほか、プロサッカークラブ「栃木シティ FC」および「栃木サッカークラブ(栃木 SC)」、日本初の地域密着型プロサイクルロードレースチーム「Astemo 宇都宮ブリッツェン」、BCリーグ所属のプロ野球チーム「栃木ゴールデンブレーブス」へのスポンサー支援も継続しており、各チームの活躍に応じた広告展開も検討していく。また、市民との接点となるイベント活動にも注力している。25 年 11 月に開催した「乗ろうよ!フェア&バスフェスタ 2025~次の未来へ停車します~」に続き、11 月 30 日には宇都宮市内での職業体験イベントに参加した。クリスマス仕様の車両展示やバスガイド体験を通じ、若い世代への職業 PR を行った。同社は今後、宇都宮大学などの学生が企画するイベントへも積極的に協力する姿勢を示しており、地域に根ざした交通インフラとしての役割を、今後さらに強化していく方針だ。
100 年のその先へ 関東自動車の未来
現在、宇都宮市を中心に利用されている路線バスは大きな転換期を迎えている。次世代型路面電車 LRT が JR 宇都宮駅の東側に開通し、バス路線の再編が進んだ。今後西側に延伸するとさらに路線が大きく変化する可能性がある。
そのような変革期においても、関東自動車が宇都宮市の交通を支える存在であり続けたいと考えている。再編により宇都宮駅西側の路線が大きく変化することに不安はある。その反面、新たなチャレンジをするチャンスでもある。福島さんは「バスを利用する文化が根付いた宇都宮だからこそ可能な挑戦だ」と語る。
昔からバスの運行を通して多くの人々の生活を支えてきた。今後、交通や社会が大きく変化しても、昔から変わらない考えがある。それはバス会社として「利用者がいかに使いやすいかを考えて運行する」という姿勢である。たとえば、LRT の JR 宇都宮駅西側延伸によって重複するバス路線の本数が 3 割減少する見込みがある。それでも、宇都宮市と連携し LRT 停留所に隣接するトランジットセンターでの乗り換えの利便性を高めるなど、利用しやすさを第一に考えて運行していくという。この考えは今も昔も変わらない。 一方で、時代とともに変化していくものもある。前述したように、近年ではEVバスの導入が進められており、30 年までに宇都宮市内を走る 7 割のバスをEVバスに置き換える計画がある。これにより、脱炭素社会やカーボンニュートラルの推進に貢献していく。
さらに、運転技術の進歩によって自動運転が普及すれば、運転手不足の解消にもつながる。最新技術を積極的に取り入れ、社会問題を解決しながら継続的に運行を目指していく。
今後は、より一層市民の声に耳を傾け、社会に必要とされ、愛される存在になることを目指している。そのために、各種イベントへの出店や、コラボ企画を行い、バスを身近に感じてもらう取り組みを進めている。また、公共交通中心の移動から自家用車へと移行しやすい大学生とも協働し、大学生がバスに対するニーズも把握していきたいという。
路線バスは長い歴史がある。その積み重ねてきた歴史があるからこそ、現在も多くの人を運び、生活を支えている。
取材班は、高瀬晃暉、井本涼菜、小久保胡多郎、平田陽睦、小貫柚乃、田村乃彩(いずれも宇都宮大学「地域メディア演習」履修生)


コメント